ぶろぐ

理転もしたけれど、わたしはげんきです。

積読記:人工知能(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー)

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「イシューからはじめよ」で有名な安宅和人さんが自身のTwitterを通して宣伝されていたことで興味を持ち、とりあえず読んでみました。DHBRは高価(2,000円/冊)なので手を出せずにいたのですが、今回は「人工知能」が主題であったこともあり、機械学習・心理学・脳神経科学という認知科学の担当領域の話が豊富だったので、まあ買ったよかったなというのが読後の感想です。

 

ガートナー | プレス・リリース |ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2015年」を発表

Gartnerハイプ・サイクルが示しているように、人工知能開発の根幹技術である自然言語処理機械学習という分野は「『過度な期待』のピーク期」にあります。大抵の技術は一旦バズワードとして世間に広まり、各メディアが取り上げながら人々は誤った期待をその技術に対して抱きます。人工知能は今まさにこの状態で、人工知能=人間が人間を作るんだ・・・みたいな印象、そして漠然とした不安がうっすらと世間に広がっているように思います。

 

多くのSF映画が示してきたように人工知能は人類の敵になるのか。それを考えるにあたっての基本事項の整理を、本書は与えてくれます。つまり、人工知能にできること・できないことの整理です。どうやら、人工知能は万能ではないようです。バズワードとして「人工知能」という言葉を利用するのは非常に有用だと思いますが、正しい理解のためには適宜言葉を置き換えた方が良いと個人的には思います。少なくとも、人工知能を語ろうとする人は注意しなければなりません。

人工知能の定義(最低限の理解のために)

 

46ページ

本稿では、この情報科学、データ、情報処理力の三つを掛け合わせたもの、すなわち機械学習自然言語処理など必要な情報科学を実装したマシンに十分な学習を行ったものをAIとして議論したい。

 

安宅さんによるこの定義が人工知能理解の全てだな・・・と感心してしまいました。私は人工知能の専門家ではないので断言できませんが、一般人が人工知能を理解するにあたってはこの三つの要素(①情報科学機械学習自然言語処理)、②データ、③情報処理力(計算環境))がコアにあることを知っていればきっと十分でしょう。

 

この定義を眺めると、ディープラーニング(深層学習)・ビッグデータ量子コンピュータという近年のIT業界を賑わすバズワードは全て人工知能の構成要素になっていることがわかります。つまり、人工知能はこれらと並列に存在するワードではなく、その上位に存在する一種の理念であると言えます。この位置付けがしっかりとされずに構成要素である各バズワードと混同されていることが、人工知能の正しい理解が進めない理由の一つであると考えます。

 

あとは、その他の興味深い記事からの引用です。

 

「繁栄サイクル」の崩壊

 

35ページ(エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー

この現象を私たちは「グレート・デカップリング」(Great Decoupling)と呼んでいます。繁栄サイクルを担うはずの四つの指標はもはや二対二に分断されました。つまり、GDPと生産性が表す経済的豊かさは引き続き上向きなのに、一般的な労働者の所得と雇用の見通しはぱっとしないのです。

 

この現象を平易な言葉にすると、「昔より少ない人間で同じ価値を生むことが可能になったが、それ故にその『少ない人間』に入れない人々は仕事に就くことが難しくなった。」という感じでしょうか。これはもはや抗えない事実であり、技術進展とともに将来的により明確になるでしょう。

 

この現象は「半分の高さまで水が入ったコップ」と同じように捉えるしかありません。つまり、「より少ない人間(=より少ない資本)で価値を生める(=稼げる)」と捉えるか、「より少ない人間だけが稼ぐようになった」と捉えるか、あなたならどうしますか?ということです。

 

アンドリュー・マカフィーはTEDでも似たことを言っているので、これも必見ですね。

www.ted.com

 

イノベーションの本質

 

137ページ(入山章栄)

>既存の知から離れて新しい知を探すことを、知の探索という。逆に既存の知を深く活用することを、知の深化という。
>組織は知の探索をなおざりにし、知の深化に傾斜する傾向がある。結果として、中長期的なイノベーションが枯渇していく。これをコンピテンシー・トラップという。日本で「イノベーションが枯渇している」といわれる場合、その企業はコンピテンシー・トラップに陥っている可能性が高い。逆に言えば、知の探索を推し進める仕掛けづくりが必要である。

 

経営の切り口から心理学・脳神経科学を捉えてイノベーションを語るとこうなるんだ、という気付きを与えてくれました。実世界に即座に新たな視座を与える心理学研究というのはビジネススクールの教授が書いていることが結構多いのですが、経営というのはやはり人間を動かすことなわけで、そこに心理学が求められるというのは当然の帰結なんですね。

 

本稿では、戦略・組織・人材・脳という流れで徐々に個人にフォーカスしながら、知の探索(Exploration)・知の深化(Exploitation)について論考していました。どこに興味を抱くかは人それぞれだと思いますが、DHBRの記事で脳の図表が登場するというのは新鮮でした(最近では、脳科学への理解も経営者には求められるのでしょうか)。