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ぶろぐ

理転もしたけれど、わたしはげんきです。

積読記:認知神経科学(道又爾・岡田隆)

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認知神経科学 (放送大学教材)

認知神経科学 (放送大学教材)

 

 

今回初めて放送大学教材シリーズを読んだのですが、さすが通信教育なだけあって、とても理解しやすい内容でした。そもそも認知神経科学というのは、人の「心」を脳神経基盤から考える学問であり、神経科学の基礎知識が必須となります。さらに、心と脳活動の関係において現時点でコンセンサスを得ている事項は少ないようで、モヤモヤとした気分を味わいながら勉強する耐久力が必要だと思います。そのような困難があることを加味しても、本書は理解しやすい構成になっていると私は感じました。

 

まあ、「認知神経科学」とAmazon検索すると、まともな教科書は本書と「イラストレクチャー認知神経科学」程度なので、少なくともその片方がわかりやすくて一安心しました。

イラストレクチャー認知神経科学―心理学と脳科学が解くこころの仕組み―

イラストレクチャー認知神経科学―心理学と脳科学が解くこころの仕組み―

 

 

興味深い箇所の引用

 

認知心理学と神経科学の交差点というと、ミラーニューロンが非常に有名かと思いますが、それ以外にも興味をそそられる知識や実験結果が数多くありました。私自身のメモ帳としてここに残します。

 

21ページ(大脳皮質とブロードマン)
大脳皮質の6層構造は、外側から順に、第Ⅰ層、第Ⅱ層、…第Ⅵ層というふうに数える。さまざまな部位の大脳皮質をさらに詳細に比較すると、各層の厚みの比率や構成している細胞の形が脳部位によって違うことがわかる。この違いについて、今から約100年前に詳細に検討したのがブロードマンである。ブロードマンは、大脳皮質の層構造が似ている領域に同一の番号を付与して脳地図を作成し、第1野から第52野までの番号によって大脳皮質の領域の違いを区別した。ブロードマンの脳地図はこのような細胞構築学的な差異に基づく領野分けであるが、各領野が、ある特定の脳機能に対応している場合がいくつもみられることもあって、ブロードマンの脳地図は大脳皮質の領域を示す方法として現在でも好んで用いられる。

 

71ページ(1次視覚野における網膜位相の保存性)
ヒトのV1は内側に複雑に折りたたまれている。現代の画像処理技術は、このくしゃくしゃの新聞紙のように複雑な折りたたみを展開し、2次元上に展開することができる。(中略)特定の時点における刺激の位置と、その時の活性の地図を2次元化したものを対応させると、脳内でも網膜上の活性パタンがそのまま表現されていることを明確に示すことができる。この成果は、それ自体が意義のあることであるが、他の研究目的のための方法として用いられることがある。たとえば視覚イメージの研究である。象のような大きな動物を頭の中でイメージすると、ウサギのような小さな動物をイメージしたときよりも、V1の活性は広くなる。これはV1が視覚イメージを投影するスクリーンのように働いていることを意味する。すなわち、V1は視神経からの情報を受け身で処理するのみならず、自らを活性化することで外界からの入力なしでも視覚体験を生じさせるのである。

 

144ページ(情動に関する考え方)
1960年代にシャクターとシンガーは、ジェームズ-ランゲ説の修正ともいえる情動の2要因説を唱えた。これは、情動の生起には身体の換気を必要とするが、それだけでは情動の種類は決まらず、生体がその換気の原因をどのようにラベルづけするかに依存して情動の種類が決まるという説である。交感神経系を活性化させるアドレナリンを(そのような作用のある薬物とは知らされずに)投与された実験参加者の情動が、その周囲の状況によって怒りを感じたり幸せを感じたりというふうに、その身体変化が何の理由によると本人が判断するかによって情動の種類は異なってくると主張した。

 

163-165ページ(ポズナー・パラダイム
眼球運動を伴わない注意の移動を「潜在的移動」と呼び、眼球運動に伴う注意の移動すなわち「顕在的移動」とは区別する。この注意の潜在的移動という現象は、人間が世界を見ている時は全体を漫然と見ているのではなく、ある対象に注意が焦点化して他の対象を無視するという「注意の空間的な分配」を示しているのである。Posner(1980)がこの実験(ポズナー・パラダイムと呼ばれ、非常に応用範囲が広い)で明らかにしたのは、眼球の運動とは独立の視覚的注意の移動が存在するという事実である。これはまさに「心の眼」(mind's eye)の動き、すなわち「意識」の焦点の空間的移動をとらえた画期的な業績である。

 

210ページ(「心の理論」の理論)
意図検出機構と視線検出機構によって、「注意の共有」(共同注意 joint attention とも呼ぶ)が可能になる。これは、他者が何を見ているかを検知することによって他者の意図を読み取る機能である。注意の共有は、他者の心を読む「心の理論」機能の基盤である。母親に抱かれた乳児は、見慣れないものが近くに来ると、まず母親の顔を見る。そして母親の表情がポジテイブ(たとえばほほえみの表情)であれば、その見慣れないものに手を伸ばす。もし母親の表情がネガティブ(たとえばおそれの表情)であれば、見慣れないものに強い警戒を示す。このように、母子間の注意の共有によって、環境刺激の解釈という生存上きわめて重要な情報が伝達されるのである。

 

217−218ページ(ソマティック・マーカー仮説)
ダマジオは、眼窩前頭皮質を損傷した症例では、社会的な葛藤を解決するための案は考えつけるのに、どれが最も適切な答えなのか全く判断できなくなっていることを見いだした。当時、眼窩前頭皮質の機能は感情と関係すると漠然と考えられていた。では、この症状は感情と社会的意思決定が関わることを意味しているのだろうか。ダマジオは、感情が身体の生理学的な状態に影響を与え、その結果意思決定の過程が影響を受けると考えた。この感情による身体への影響を「ソマティック・マーカー」と呼ぶ(身体に印をつける、とでも訳せる)。たとえば、ある意思決定が悪い結果をもたらすと、苦痛を感じる。するとソマティック・マーカーのシステムはその意思決定について「苦痛」という印を身体に刻印する。すると、その後にまた同じ意思決定をするような状況になったときには、身体に刻印された「苦痛」が生理学的に瞬時に再現され、同じ意思決定を迅速に回避するように働くと考えるのである。このメカニズムは、じっくりと頭を使った合理的・論理的判断よりもはるかに早くはたらく。